2008-05-07 Wed  [ 旅・取材・人 ]

密かなるハクビシンの動き

by gaku


3日目は、静岡県境の「ヒョー越し峠」をめざした。
途中の小さな集落の道路際に、ツバキの木があった。
真紅の花をいくつもつけ、道路にも花びらが多数散乱していた。
こんなツバキを見ると、ボクはすぐに「ハクビシン」を思い出す。この時期のツバキの木には、ハクビシンが絶対に毎晩やってきていることを確信しているからだ。
だから、人家付近であろうと、無人集落であろうと、ツバキがあるとハクビシンの行動が目にみえてしまうのである。



ツバキの幹の直径は30cm余もあった。
成長の遅いツバキだから、ひょっとすれば100年くらいかかっているのかもしれない。
幹の樹肌を丁寧に観察すれば、案の定ハクビシンの爪痕が随所に見つかった。
やっぱり、毎夜この木にやってきて、ハクビシンはツバキの花の花粉を嘗めていたのだ。
花が、1000個あれば、その1000個に鼻面をタッチしていくからである。
それも、一晩に2回、3回という周遊コースでタッチしていくから、2000回、3000回もの受粉がハクビシンの鼻で繰り返されることになるのだ。



ハクビシンのこうした行動を目撃すると、彼らはいったい何を栄養源にして生きているのかと思ってしまう。
ツバキの黄色いあのオシベだけを鼻面でタッチして、嘗めている。
それが、はたして栄養になっているのだろうか、と思ってしまう。

まあ、飯田市に合併となった「旧南信濃村」の過疎集落には歴史を物語る大きなツバキの木があることは確かだ。
そのツバキが、人知れず外来動物のハクビシンの生活を支えていると思うと、これもなんだか歴史の因果を感じた。
ハクビシンはそんなことは微塵も思っていないだろうが、かってに生えているツバキだから美味しければそれでいい、のである。



このようなハクビシンの行動を、この村の人たちは誰一人として知らないだろう。
それが野生というものであるが、峠に向かう道路を走っていてもボクはそれを見逃さなかった。
自然界には、どんな状況にあっても、確実になんらかのかたちでサインを送ってきているからである。そのサインを見逃さないようにするのが、エコロジーセンスであろう。

そのツバキの木の近くで、ハクビシンの交通事故死体を発見した。
過疎地でのんびりしている集落でも、近年の車社会をこのハクビシンは計算できていなかった、ようだ。


写真上から、
「道路で血だらけになって死んでいたハクビシン」
「道路際にあったツバキ」
「道路にまで、花びらが散乱」
「幹には、しっかりとハクビシンの爪痕」
(リコー GX100) 

2008-05-06 Tue  [ 旅・取材・人 ]

自然界を探るのはセンスの問題

by gaku


2日目は、南アルプスの南部にある聖岳の懐まで行ってきた。
しらびそ峠に展示してある「森林鉄道」で活躍した機関車を見て、その沿革を読んでから、これは行かねばならぬと思ったからだ。

森林鉄道は1940年から工事をはじめ、1972年に廃止されるまで、活躍したそうだ。
その前に、国有林の無尽蔵といわれる森林資源開発がここで行われたことに興味もあったし、その結果を見ておく必要もあったからだ。
そのうえで、現在までを考察しながら、自分の目で確認もしてみたかった。
西沢渡といって、遠山川の奥地にあたる聖岳の懐までが森林鉄道の最終地点なので、そこまでは自分の足で歩いてみようと思った。





聖岳と光岳への登山基地となる「聖光小屋」までは、林道を車で行くことができる。
あとは、森林鉄道のあった路線跡を登山道がわりに進むことになる。
地図では、2,5kmの行程だったが、かなり荒れてもいた。
腰には、ツキノワグマに襲われたときに使用する「熊避けスプレー」と「剣ナタ」。あとは、非常食に双眼鏡、カメラだけの装備。

聖光小屋の主人に挨拶をしてから出かけたが、ルートそのものはきついものではなかった。
道中には、テンの糞やらキツネの尿臭、熊棚なども随所に発見しながらの山歩きだったので、疲労もなく快適だった。
熊棚は、ミズキの実を食べるために昨秋ツキノワグマが登ったものが各所で確認できた。
ミズキをツキノワグマが食べるとは思っていたが、南アルプスでその現場を初めて見て感動した。
なかなかに、ツキノワグマも個体数が多そう、である。



35年も前に開発を終えた国有林なので、樹木そのものはまだまだ若く、これからという状態だった。
なので、魅力的な森は何一つなかったが、これも歩いてみなければわからないことである。
まあ、この開発のあとに、ニホンジカをべらぼうに増加させて、いまでは3000mの稜線まで分布をひろげさせてしまっているが、これも、国有林開発の結果であることはまちがいない。

夕方になって、聖光小屋に戻り、主人と少し話をした。
道中の感想をのべながら、
『熊の出没がけっこうありますね、熊棚がずいぶんとありましたよ。』っと、ボクが言ったら主人はびっくりしていた。

『っえ! 熊棚がありましたか?私は、まだ見たことないですよ。』

ボクは、この言葉のほうが不思議だった。
山に従事している人が、熊棚を見てないことのほうが、驚きだったからである
動物に感心がなくても、熊棚くらいは目にとまりそうなものだが、どうもそれもできてなかったようだ。
まあ、自然の見方なんてそんなものかも知れない。
感心を持っていても、見えない人にはなにも「見えない」ことだってある、からだ。
こんな会話があって、ボク自身がいつも思っていることは、自分自身の目を確かな視線として信じることだった。
そして、センスの問題なんだと。
とにかく、「自分の目で確かめよ」が、ボクの信条だからである。



写真上から:春霞にけぶる雪山が聖岳。
      森林鉄道を走っていた機関車。
      遠山川開発の沿革看板。
      森林鉄道跡のトンネル。
      眼下に流れる遠山川。
      (Nikon D300 シグマ17-70mm)

2008-05-04 Sun  [ 旅・取材・人 ]

これがほんとうの「蝶ネクタイ」

by gaku


3日ほど、南アルプス南部へ出かけていた。
一日目は、しらびそ峠に泊まった。
なんと、ここは標高1918mもある高原。それゆえに、なかなかに雄大な南アルプスの風景を眺めることができる。

夕方着いたのだが、ロッジには連休の客が入り、いくつかの明かりが灯っていた。
そういうところに泊まれればいいのだが、ボクは簡易テント泊。
まだ残雪のある高原だけに、冬山用の寝袋が暑くもなく寒くもなくて、心地よく熟睡できた。

朝起きて、ロッジ前のステンレスでできたフクロウの彫刻を見ていたら、喉元にガがとまっているのに気づいた。
ガの色も彫刻に似ており、見事に擬態をしていた。
これを、ほんとうの「蝶ネクタイ」というのだろう、と思った。

少し滑稽だったが、ガの身になって考えてみると、
「昨夜ロッジの明かりに誘われて飛来してしまったにちがいない。
 そこで、朝になり、行き場に困り、フクロウの喉元に貼りついてここで外敵をやりすごそうとしているのだ。」
そこまで気づくと、日ごろボクが言っているところの「光害」を再認識してしまった。
いままで、電気照明なんてなかった高原にいきなりロッジができて明かりを使うようになると、周辺の昆虫たちはかなりかく乱されてしまうからだ。
これから夏に向かうが、照明に誘引され死んでいく昆虫たちが無尽蔵にいることだろう。



こういう虫たちを餌にするであろう野鳥たちの声を聞いたが、まだまだ数種類にすぎなかった。
これから数週間のうちに急激に種類も増えてくるだろうが、テントで眠り耳を澄ませながら野鳥たちの声の分析をすることで周辺に棲む捕食層を知ることができる。
そして、こうした野鳥たちの変化をこの先、10年、20年という単位で耳を澄ませていけば、いろんな動きが見えていくことであろう。
ボクの仕事は、万事がこうやって自分だけのデータを積み重ねてきているから、独自の分析ができるというものだ。
ガや大型昆虫を主食にしているアオバズクとヨタカが伊那谷から激減しているが、これも「光害」が大きく関係しているとボクはみている。
自然観察は目で見るウオッチングも大切だが、耳で聞き分けるリスニングも大切だ。
ボクはこれに「臭い」も加えて、自分の五感に訴えて自然観を養っている。
そのためにも、こういう旅は必要なのだ。

写真上:これがほんとうの蝶ネクタイ。
写真中:標高1918mにある高原ロッジの夕景。自動販売機がここでも夜に主張していた。
(共通データ:Nikon D300 シグマ17-70mm)


2008-04-30 Wed  [ 旅・取材・人 ]

中央アルプス駒ヶ根高原の噴水

by gaku


いよいよ、ゴールデンウイークがはじまった。
国民的大連休なので、ここ中央アルプスの駒ヶ根高原にも多くの観光客が全国から訪れる。

駒ヶ根高原は、いまが新緑の芽吹き時期。
遅い桜も散りはじめ、みずみずしい緑が競いはじめている。
中央アルプスの宝剣岳も春のやわらかな日差しにたたずんでいる。

そんな高原の風景は、地元に住んでいても、やはりすばらしいと思う。
実におだやかな気分になれるからだ。
「駒ヶ池」というため池には、この風景が凝縮されて輝いている。
しかし、この「駒ヶ池」には、噴水がある。
この噴水が、水面に映る風景をかき消しているのだ。

この噴水は、地元の建設会社が寄付したものだ、そうだ。
ボクは写真家として地元の風景を大切にしているが、やはりこの噴水はおだやかな風景を台無しにしてしまっていると思う。
とにかく、せっかくの風景を楽しみたいのに、下品でもある。
「何とかならないものか…」と思うのは、ボクだけではないだろう。
全国から訪れる観光客も、少なからずそう思っている人はいるにちがいない。

写真:「駒ヶ池」の噴水。(Nikon D300 シグマ17-70mm)


2008-04-29 Tue  [ 哺乳類・野生動物 ]

ムササビのライブカメラがおもしろい

by gaku


ボクの仕事場は、中央アルプス山麓にある。
この仕事場の樹木には、3つのムササビ用の巣箱が仕掛けれらている。
巣箱の内部には、すべてモニターできるように赤外線カメラが仕込まれている。
なので、巣箱の内部の様子がしっかり観察できるようになっているのだ。
これは、夜行性のムササビの巣内での行動を観察したいがために、ボクが考え製作したものである。
このカメラのお陰もあって、見えざる野性のムササビの子育てを観察することができるようになった。
>野生動物ライブカメラ

巣箱は、すでに4年前から設置されている。
この間に、昨年、一昨年とムササビが子供をつれてきて育児する場面を見ることができた。
だが、今年は、巣箱内で出産したので、以来ずっと子供の成長を見守ることができているのである。



ムササビの子供が生まれたのは、3月22日。
23日には、出産を間違いないものにしたが、母親の行動から観察して推測すれば、22日に出産した可能性が高い。

生まれたムササビの赤ちゃんはあまりにも小さく、か弱いために、母親がしっかりガードし続けて2週間。
そのご、赤ちゃんも成長し、最近ではライブカメラでもしっかり見えるようになってきた。
といっても、まだまだ子供も小さく、体重は100-200グラムしかないのではないかと思う。
このまま、そっと見守っていけば、あと1ヶ月は観察できるだろう。
立派な若ムササビになるまで、ずっと観察できることを願っている。
webサイトによるこのようなライブカメラは世界初なので、興味のある方もない方も、ちょこっと覗いてみるのもいいだろう。



写真上:巣箱穴から顔を出したムササビ。(Nikon D3 シグマ500mm f4.5)
写真中:ムササビ母子の動き。母親の慈しみがそのしぐさにどっさり現われている。
写真下:母親が夜中に数時間外出するので、その間はひとりでお留守番。確実に成長を続けていることがわかる。

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