数年前だが、知人のKさんがツキノワグマに襲われた。
それも、まさかという自宅庭先での遭遇だった。
そのときの様子を説明しながら、ズボンを脱ぎ、シャツを脱いで、傷口を見せてくれた。
大腿部にはクマの牙の痕がのこり、内出血をしていた。
パンツ内の盲腸付近には、かなり深くて大きな傷もあった。そして、わき腹、背中へと深い爪痕がつづく。
その爪で首の頚動脈を引きちぎられなかっただけでも、不幸中のさいわいだった。
Kさんは、ツキノワグマと遭遇をしてこれほどの傷を負ったが、
『なーに、自分の不注意だったのだから、恥ずかしいことだ。』
そういって、医者へも行かず、行政にも届け出なかった。
傷口をみて、野生動物の牙や爪は破傷風菌などの危険性があるから、ボクは何とか医療機関だけには行かせた。
今回の事故は偶然性も高かったが、人家の庭先までツキノワグマが出没するのは犬の放し飼いがなくなったからである。
つい半世紀前までは、「日本犬」がいて、みんな放し飼いにされていたから集落を彼らが守ってくれていた。
だから、集落への野生動物の侵入は稀だった。
日本の気候風土に馴染みながら数千年も人間と寄り添って生きてきた日本犬は賢かったから、人間への危害もなかった。
しかし、戦後になって洋犬が入り、雑種化したりして、犬の性質も悪くなった。
その後、放し飼いができなくなり、犬もストレスが溜まって、人間との咬傷事件が増えて犬に対する認識も変わっていった。
加えて、近年は精神的にも萎えてしまった軟弱なペット犬ブーム。
そうした間隙を突いてきているのが、野生動物たちなのである。
野生動物の「野生」というものを、きちんと理解できる人間もいなくなってしまった。
こうしている間にも、野生動物は「野」で「生きる」ために、自分たちを日々磨いているのだ。
すでに自然から乖離してしまった人間は、この現代社会のなかで、ますます家畜化してしまっているのが滑稽でも、ある。
伊那谷にて。
D1
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gaku塾に、「散歩に疲れたので主人に背負ってもらう犬」が投稿されていました。
都会だけじゃなくて田舎の犬も、「生きたぬいぐるみ」化が進んでいます。
かつて子犬時代に抱き癖を付けてしまった結果、20kgにもなったのに、抱っこされたがるサモエドがいました。まさに生きたぬいぐるみ・・・・
きっと彼ら(犬種)の故郷では、そんな扱いをされるとは思っていなかったでしょう。
環境の変わった現代での犬の放し飼い・・・には問題が多すぎて複雑な思いですが、犬が犬として、動物が動物としての性質を理解・扱いがされていない事が多い今の日本は、問題だと思います。
放し飼いがなくなる。→「野生」からのバリアがなくなる。
以前は考えてもいませんでした。
飼い犬を、まさに「猫可愛がり」していた私など恥ずかしい限りです。
野生を残した番犬の貴重さがよくわかりました。
私が幼かった1960年代にはよく野犬狩りの場面に出くわしましたが、今にして思うとあれはバランスのとれた 日本人/自然 の関係へのレクイエムだったのですね。