「学習放獣」は手負い熊の増産

20170816 【写真家は見たシリーズ 26 】

このツキノワグマは、左前肢が壊れている。
逆L字形に曲がり腫れ上がり相当に痛そうで、腕をかばいながら三本の足で歩いていた。
ゆえに、かなり気が立っていた。
その原因は、人間による「お仕置き」傷害事件だった。

ある有名観光地の別荘地帯に暮らす家族がいて、ツキノワグマが軒下にやってくるのに気づいた。
このため主人は、3.6mの角材先端に五寸釘を10本ばかり打ち込んだお仕置き棍棒をつくり、そのクギでツキノワグマを痛めつけたのだった。
角材は小型重機に縛りつけ、ゴムの力で弾力をつけ、それをロープで引っ張って部屋の中から操作するという方法でツキノワグマにダメージを与えたのだ。
こうして痛めつければ、ツキノワグマは恐れをなして二度と庭先には出没しないと考えたらしい…。

しかし、主人の思いとは裏腹にツキノワグマは一向に立ち去らなかった。
そこで、オイラに原因究明の観察依頼をしてきたのだった。
この傷害行動でツキノワグマはすでに、人を恨み凶暴となっていた。
オイラが夜間に観察していても、何回も車に平手打ちにやってきたからである。
車の窓からレンズの先端だけを出して撮影しては、クマの動きに応じて窓ガラスを締めるという操作がつづいた。
パワーウインドーではとっさの作業ができず、昔の回転式手動ノブのほうがどれだけ緊急性に優れているのかをこのとき痛く知った。
それは、ツキノワグマが車に平気で手をかけるのだから窓の隙間に爪が入りそのまま外にあの力で引っ張ればどのような結末になるかは容易に想像がつく。なので、爪が入らないように窓を閉め切ればまずは安全確保ができたからだ。これがブラインドテントだったら、恐らくズタズタであろう。
この撮影を通してツキノワグマにも相当な感情があり、痛めつけた本人以外に人間を憎悪することがわかった。

なので、これまで「お仕置き放獣」や「学習放獣」などと人間に都合のよい解釈だけで檻やワナで捕まえたツキノワグマを野に放してきたが、これはまちがいなく“手負い熊”の増産を意味しているから危険きわまりない愚行だとオイラは言いつづけてきた。
ツキノワグマは憎悪の表情を隠したままポーカーフェイスでいきなり攻撃行動に出てくるのだから、クマの心理を読みとることは極めて難しい。
まあ、実際に現場に立って観察してみればツキノワグマという動物がよく理解できる、と思う。

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