田舎暮らしの夢


伊那谷のある山村に、東京から脱サラをして住みはじめたAさん夫婦がいる。
Aさん夫婦は、都会時代にそれなりの蓄えをして、田舎で営農をしながら生活するのが夢だった。
やがて夢を現実なものとするために、過疎集落となりつつある山林原野に家を建て、桑畑だったところを農地に開墾するべく土地も買った。
土地にはリンゴの木を植えて、まずは「リンゴ栽培」に踏み切った。
しかし、リンゴは思うように育たなかった。
桑畑には「モンパ菌」という土壌菌がいるから、リンゴ栽培には不向きだったのである。
そのことを知らなかったAさん夫妻は、リンゴの木を植えればすぐに収穫に結びつくものと考えていた。
以来、Aさん夫妻は失敗の連続だった。
米づくりも試みたが、日当たりの悪い山間地の田んぼに美味しい「米」ができるハズもない。
このような土地だから先人たちは「あきらめて」村を出ていき、過疎地になったのである。
そこに新たに入り込んで「農業」をするには、趣味の範囲内ならばそれでいいかもしれないが、生計を立てるとなると並大抵ではない。
それも、年齢が若いうちならまだまだ無理もきくが、50代をすぎてしまって新規「農家」になるのは体力的にも難しい。
こうしてAさん夫妻は預金も食い潰し、近隣農家の手伝いをする日雇い生活となった。そうなると、人口密集地のほうが通勤にも便利で、過疎地の山林原野に家を建ててしまった失敗を後悔する。
これ以外にも、大学をでてからすぐに移り住み、農業をはじめたはいいがその厳しさに絶えかねて逃げ出す若者も少なくない。
地権者の村人には迷惑をかけないからといって、村の顔利きを間にいれて住み込んでも結局は大勢に迷惑をかけて夜逃げ、なのである。
その後始末を、村の顔利きが『もう、懲りごりだぁー』といって、やっている現実。
ボクも伊那谷に生まれて伊那谷に育ち、今日でもここで仕事をしている。
こうして田舎に生活できるのも、伊那谷という自然環境を熟知しているから写真も撮れるし、それに見合った文章も書けるので生きていけるのである。
農業だって、自然環境を熟知してないとできない仕事だ。
だから、単なる「田舎暮らし」のあこがれだけでは、営農は無理なのである。
現代人がこうして移動してきては移り住み、苦しんで逃げ出す多くの新住民をボクは見てきているが、田舎で生活するにはよほどの覚悟がないとできない。
2007年度の大量退職者のアンケートでは、長野県に移り住みたい人たちが全国でも群を抜いているという。
このような人たちの懐を目当てに、営農不向きな不良債権を整理するために虎視眈々と狙っている田舎人もいる。
新人類と旧人類のうごめきを距離をおいて見ていると、大地を舞台に繰りひろげられる野生動物たちの生き残りをかけた闘いともよく似ている。
人間といえども、地球のほんの片隅に住まわせてもらっている「野生動物」なのだなぁーと、つくづくボクには見えてしまう。
写真:村で15代つづく農家といえども、小さな柿の1粒ずつに皮をむき手をかけて、「干し柿」づくりをしていた。
   だから、15代も生き延びてこられたのであるが、考え方も暮らしも驚くほど質素だ。

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田舎暮らしの夢 への4件のコメント

  1. 土生 より:

    農業は自らの生活を自然の一部として営まなくてはいけませんから、たとえ憧れる人は多くても、それで成功する人は多くありません。
    自然相手の生活は、おごらず、謙虚でなくてはいけませんので、簡単ではないのです。
    しかし、生命維持の根源である「食」に携わることなので、とてもやりがいがあります。
    そして、収穫の喜びは、達成感と明日への活力を与えてくれますね。

  2. まるちゃん32 より:

    はじめまして。
    僕は安曇野で新規就農してリンゴ栽培をしております。今年で無事3年目が終わりました。
    農業をやってみてやっぱし農業は厳しいですね。
    僕は農業所得だけで生活できていますから、自分でいうのもなんですがたぶん新規就農者としては優秀な方なのでしょうが、決して楽ではないです。僕の周りでは農業所得だけで生活できない新規就農者が何人もいます。
    3年やってみて思うのは「自分にはこの仕事はあっているな」と思う反面、「確かに農業しなくなるのはわかるな」という事です。精魂込めてつくっても自分以外のまったくの別の要因で農産物の単価が暴落したり、自然災害にはまったくなす術がないし・・。農協出荷だけでは100%生活できませんね。農業で生きていくためには忍耐力が必要な気がします。
    あと地元の2代目の農家はまったく当てにならないですね。あてにする方がいけないのだろうけど、家も土地も機械もあって経営を始めた彼らの農業経営の意見は何ももたない新規就農者には全く参考にならないです。
    モンパのある畑ではリンゴだけじゃなくほとんどのバラ科の果樹は栽培できません。でも、地主もわかっていてもそんな事言いませんしね。農地を借りる時は慎重にならなくてなならないのだろうけれど、そんな事言ってられない場合もあります。
    僕が思うに会社が嫌になったとか、社会に適応できないとか、対人関係が苦手などという理由で農業は絶対してはならないと思います。

  3. gaku より:

    >土生さん、
    >まるちゃん32さん、
    いいお話をありがとうございます。
    実は、最近も田舎暮らしの相談を受けたものですから、ちょっとアドバイスをしてみたのですが…
    どうやらアドバイス事態が迷惑だったみたいで、誤解されてしまいました。
    やっぱり、田舎には飛び込んでみて体験してもらったほうがいいのかもしれません。
    そのうえで、数年してから、成功したのか、失敗だったかは、本人たちに気づいてもらったほうがいいようですね。
    >モンパのある畑ではリンゴだけじゃなくほとんどのバラ科の果樹は栽培できません。でも、地主もわかっていてもそんな事言いませんしね。農地を借りる時は慎重にならなくてなならないのだろうけれど、そんな事言ってられない場合もあります。
    ここでボクが書いた夫婦も、まさにモンパのことは地主も黙っていて土地を売ったのですよ。
    はやい話、騙されたんですね。
    >僕が思うに会社が嫌になったとか、社会に適応できないとか、対人関係が苦手などという理由で農業は絶対してはならないと思います。
    まさに、おっしゃるとおりです。
    田舎に来たけれど、生活に追われアルバイト生活している人も周りにはいっぱいいます。
    資格や経験を生かせるような企業なんてそう多くはないですから、仕事はみんなキツイものです。

  4. 八麓 より:

    あけましておめでとうございます。
    2007年問題として団塊世代の一斉リタイヤがありますね。それにあわせて田舎暮らしも話題になり、都会の
    大型書店ではアイターン、ユーターン田舎暮らしの
    コーナーも賑わっているようです。神奈川から移り住んだ私も、脱都会の先駆者として見られてるのか最近、
    リタイヤを控えた人から相談を受けますねー。
     話をすると一番ネックになるのが田舎独自の結びつき
    みたいです。町や村の行政が身近なところまで下りてきて自分たちの部落の事を自分たちでやらねばならない
    という都会ではそれほどでもなかった事が面倒なようです。隣組組織というのになじめないと、難しそうですね。
     実際、今までそういう経験がないので非常にとまどって
    しまいます。私も今年副区長という大役を任され、昨年暮れから今まで、休み無しで地域のための仕事をこなして来てます。都会から来る人にとっては、はっきり言って
    非常につらいと思います。慣れるまでは。
     移り住む前に、経験者の話を是非、聞いてみる事ですね。