野生動物からみた人間…


ここ10日ばかり、好天に恵まれていた伊那谷をツキノワグマの痕跡を求めて走りまわっていた。
とにかく山岳道路を一日200km以上も軽ジープで走りまわると、疲れてしまって、もうクタクタの毎日だった。
久しぶりに中央アルプス山麓の駒ヶ根高原に帰ってきたら、先月あった遭難者の件で話題騒然としていた。
何人もの知人が、動物についてボクに相談をしてくるからである。
知人 『gakuさぁー 冬の駒ケ岳の稜線には肉食動物がいるのかなぁー?』
gaku 『なんのこと、さぁー?』
知人 『稜線で見つかった遭難者の両手首と顔が何者かに食べられてしまっていたそうだ、よ。
    gakuさが、日ごろから言っていることが俺らぁーにもやっと理解ができたんさ、ね。』
gaku 『標高2900mの稜線では、キツネもテンも、この時期には里に下ってきていて肉食動物は棲めないからなぁ。
     考えられることは、翼をもった野鳥しかいないぜ。
     イヌワシかクマタカ、カラス… このどれかが犯人だと思う、よ。』
知人 『どうして、手首と顔だけなんだよぅ。』
gaku 『冬山だから防寒具をしっかり着ていたから、そこまでは野鳥も嘴をかけられなかったと思う。
     雪上に露出していた素肌のところからついばんでいくハズだから、ね。
     これが夏ならば、あっという間に白骨になってしまうよ。ハエが数十万個の卵を産んで、幼虫が服の中まで侵入して処理してしまうから。』
遭難者ご本人やご遺族の方には心からご冥福をお祈り申し上げるが、自然界とはこういう世界なのである。
野生動物たちは人間といえども生きているうちは「警戒」もするが、死んでしまえば「餌」という見方しかしてこないからである。
自然環境や風景を花鳥風月で愛でているだけが自然界ではないので、もう少し内部に迫ったこうした世界のあることに、私たち現代人は気づいておいてほしいものである。
そんなつもりで、ボクは写真集「死」を出版したのが1995年。
当時でも、今日でも、まだこうした仕事を迎えてくれない人たちもいるが、まさに人間は「メメント・モリ」なのである。
こういう世界のあることを知ることから新たな自然観も生まれるので、メメント・モリを理解しておくことは人生にも大切なことだからである。
写真:満月に照らされる中央アルプスも、里から見れば美しい表情となる。
    しかし、内部では厳しい自然が脈々と息づいている。その厳しさを知っているボクは、冬のこの山頂へはいまだに立てずにいる。
    ボクには勇気がないからであるが、勇気のあった多くの知り合いも、またこの山から別世界へ旅立っていったものも少なくない。

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野生動物からみた人間… への2件のコメント

  1. たんぽぽ より:

    この遭難事故、なかなか遭難者が発見されず気になっておりましたが、宝剣岳東斜面で見つかったのですね。捜索活動されたみなさんは大変なことでしたでしょう。
    どう見ても無謀と思えるこの遭難者の行動ですが、やはりロープウェイで2600mまで安易に登れたことがアダとなったのでしょう。通年営業するロープウェイ駅では普通の登山口とは違った入山者チェックが必要でしょうね。

  2. gaku より:

    稜線での天候の急変で、パニックになったことが予想されます。
    一夜に1m以上の新雪が強風とともにあったと思われます。
    この山では、写真撮影での事故が多発しています。
    ロープウェイで簡単に行かれることも、たしかに事故を誘発している一因にはなっていることでしょう。