人工林では「編々タイツ」が流行中


福井県小浜市から京都へ抜ける「鯖街道」を走った。
京都と滋賀県境の山道で、杉の木の幹に荷物用のビニールテープが編タイツのように巻かれているのが目についた。
これは、ツキノワグマかニホンジカが樹皮を齧るために、防止策としているのだろうと思った。
杉の木は樹齢40年ほどだったから、ここまで育った木を枯らされては林業者も泣くになけない。
40年間の苦労が一瞬のうちにムダになってしまう。
ツキノワグマはその気になればすごい力を発揮して目的を果たしていくから、ビニールテープくらいは簡単にはがしてしまうだろう。
だから、効果のほどは疑問符つき、だ。
そんな「網タイツ」が、今夏は長野県にもやってきた。
長野県の南部にあるヒノキの人工林に、このような防止策が登場してきているからだ。
このような策が施されるには、それなりに被害が発生しているからである。
そんな被害に遭ったヒノキ林を訪ねてみた。
樹齢20-30年ものの植林木を100本あまり、ツキノワグマが派手に皮を剥いていた。
地上から2mくらいまでの表皮を剥ぎ、皮の裏側にあった幹の柔らかい部分を下から上までズズズーっと前歯で押しながら樹液を染みださせて吸いとった痕がみえるからである。
どの木も、同じような痕が残っているところをみると、ツキノワグマはヒノキの樹液をジュース感覚でご馳走としたのである。
しかし、皮を剥がされたヒノキは悲惨な状態で、これなら確実に枯れると判断できた。
こうした被害を林業者が目撃すれば、冷静さを失い、犯人だけを悪者としてまわりが見えなくなってしまうものだ。
そこでボクは、100本あまりの被害木を慎重に調べてみた。
数千本もある同じようなヒノキ林で、被害に遭っている樹木はところどころに点在している。
クマがヒノキの樹液ジュースを欲しかったら、片っ端から皮を剥いでいったほうが効率がいいのにそれをやっていないからである。
派手に皮を剥いた木があっても、すぐとなりの木にはまったく手をかけていないもののほうがほとんどだ。
このことは、皮を剥く木とそうでない木を、確実にクマが選別していたからである。

クマに狙われる木は、樹木の健康状態をしめすサインをそれなりに出しているにちがいない。
樹液に含まれる成分から、ツキノワグマが反応するある種のニオイがあって、鼻のいいクマがそれをキャッチしながら皮を剥いでいるのである。
その結果は樹木が枯れてしまっても、クマにとっては大きな自然界の中で計算済みなのである。
いわば、病気の木を「選別」しているからだ。
植林した木だから、人間はそのすべてを収獲しなければ気がすまないであろう。
野菜だって曲がったキュウリができるように、数千本の植林木のなかには100本ほどの死滅木は樹木の生態上折込み済みなのである。
むしろ、クマが皮を剥ぐという行為を私たち現代人に示してくれることから、そのメカニズムを探ってみようと思うことのほうが大切なのではないか。
林業者も森林研究者も、そして生態学者も、こうしたヒントから現代人が次世代のことを考える答えにつながるような視点に気づいて調べて欲しいと思う。
なぜならば、農業での米づくりは毎年秋に収獲の答えがあり、1000年以上の歴史をもって日本人は生きてきた。
しかし、植林して100年後に収獲しようと考えた「林業」の歴史はまだまだ浅く、現代人は答えをもっていないからである。
これに対してツキノワグマは、数百年先を見越した自然時間枠をもって現在を行動しているのだから、20-30年の植林木の皮を剥いで「枯らす」という行為は確かな「答え」のうえでの行動にちがいないのである。
ここに、私たち現代人が自然界のメカニズムを探る上で多くのことを学べるヒントが隠されているような気がしてならない。
写真上:杉の幹に巻かれたビニールテープ。
写真下:ツキノワグマに樹皮をはがされた植林ヒノキ。

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人工林では「編々タイツ」が流行中 への2件のコメント

  1. C-NA より:

    登山道の植林地帯でよく見かけるあのアミアミのヒモは何のためだろうといつも思っていたらそういう訳だったんですね、近くにクマがいると言うことなんですね。

  2. くまがい より:

    炭焼きをしなくなった今・・・やはりツキノワグマは、今も昔も変わらずに森を管理している「生態改変者」なのかもしれませんね。