ウルシとサルと人と公園と


中央アルプス山麓高原にある河川公園。
その公園にニホンザルが、ぞろぞろ、ぞろぞろぞろ、ぞろぞろぞろぞろぞろ…っと、およそ10ダース以上がたむろしていた。
このような景色は普段のことなので、気にとめることなく横の道路を車でボクは通りすぎた。
500mほど走り続けたであろうか、しかし、この光景が気になっていた。
ニホンザルはれっきとした野生のサルである。
その大群がサファリパークよろしく、公園内で遊んでいる。
これは、見方によっては異常な風景であって、やはりここは撮影と観察をしたほうがいいと思って引き返した。
公園の駐車場へ車を止めて、車内からサルたちの群れを静かに観察することにした。
駐車場にはボクがひとりだけだし、こういうサルを観察するには車外に出ないほうがよりノーマルな行動を見届けることができる。
これが、ボクの動物観察のセオリーなので、窓を少し開けて双眼鏡で追ってみた。
サルたちは、公園の地上で松の実やら青芽のようなものを安心して食べていた。

そこへ、卒業式を終えたのか、中学生くらいの生徒を乗せた父親の運転する車が2台、ボクの横へ滑りこんできた。
生徒は男女合わせて6人。それに父親が2人。
車からはバラバラと全員が降りたが、目の前にいるサルには気づかないでいた。
そのとき、一人の生徒が『ウルシって、なにぃ?』っと、父親らしき人物に聞いていた。
駐車場の後ろ10mほどのところには、たしかに「うるし注意」の看板がでている。
「ウルシといえば、漆のことで、人によっては皮膚が激しくかぶれる植物じゃあないか。
 そんなこと、伊那谷の人間ならみんなが知っていることではないだろう…か?」
ボクはそう思いながらサルを見ていた。
その生徒は、もう一度『ねえー ウルシって、なにぃー?』っと、大きな声で聞くが、だれも答える者はなく無視していた。
父親くらい答えるだろうと、ボクは思っていたが、とうとう答えなかった。
たぶん、父親も含めてこの8人全員が「ウルシ」のことを知らなかったにちがいない。
やがて、そのなかで誰彼となくサルを見つけた。
『サルだぁー』
『っえ、どこにぃー』
『ほんとだ、サルだぁー』
全員にサルの存在が分かった時点で、携帯電話をカメラモードにしてサルに向かって走りはじめたのである。
サルは、散りじりになって逃げだすも、なおもそれを追う8人。
やがて、群れの本体が山中へ逃げていったのを確認すると、数頭の若いサルたちが木に登ってその少年たちに向かってキバを?いて威嚇をしはじめた。
その形相はすざまじく、樹上からいまにも飛びかからんばかりだった。
サルの表情は明らかに怒っているのに、生徒や父親に、その「怒り」の表情が読めていないのだった。
それなのに、皆が携帯電話で10mくらいの位置にいるサルを撮影している。
マズイなと思ったけれど、ボクは車からそれを観察するだけにとどめていた。
8人もいるのだから、一人くらいはサルの表情を察知するべきだろうし、誰かが引っ掻かれなければ野生動物の本性にも気づかないだろう、と思ったからだ。
やがて、撮影に飽きたのか、このグループは車に戻ってきて、駐車場を後にしていった。

これを見て、野生動物との付きあい方はどのように教えればよいのだろうかとも思ったが、これは「教えられない」と感じた。
また、この公園は一級河川整備のついでに山林だったところに「公園」をつくったものだった。
サルにとってはあたりまえに、自分たちの生活エリアだと思って行動をしている場所である。
人間だって、駐車場もできて道路も整備してあるのだから「公園」として訪れる。
お互いに、「当たり前」で同じ場所を「利用」しているにすぎない。
周辺には、ウルシだってあるし、夏にはマムシやクマだっているところである。
自然と付き合うには、やはりそれなりのリスクを人間も負わなければならないだろう。
もちろん、サルだってそのリスクは負わなければならない。
写真上:樹上で威嚇するサルたち。
写真中:公園をサファリパークのように歩く野生のサルたち。
写真下:「うるし注意」看板の意味をどれだけの人たちが知っていて、公園を訪れていることだろうか。

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ウルシとサルと人と公園と への4件のコメント

  1. 小坊主 より:

    そうして、何か被害が出ると、やれ、ウルシを伐れの、サルを追い払えの。。

  2. 僕も海外で観光客が治安の悪い国で、あまりにも無防備なので、一言、言ったことがあります。そしたら、そのオバチャン、あたしは中東だって行った事あるのよ!と言われた事があります。余計なおせっかいなのかもしれません。それ以来、余計なお世話は焼かないようにしています。一度経験してみる事が大事なのだと思います。動物相手だと小坊主さんのような結果になるので動物たちには、気の毒です。こういった事は、やはり自己責任なのだと思うのですが...。

  3. 粗忽鷲 より:

    んー重症。。。
    公園は、造る側も利用する側も
    安易に考えてはいけませんね。

  4. gaku より:

    以前、「ツキノワグマ事件簿」で書いた「ドングリ養生中」の写真も、公園づくりの一環です。
    20-30年後には、立派なドングリ林になってツキノワグマを公園へ呼び込むようになる、とボクは睨んでいるんですがね。