キョンが攻めてくる…


千葉県房総半島に、台湾原産の小型のシカである「キョン」が野生化しているという。
それも、5000頭以上もの数になり、すざまじい勢いで増加中だそうな。
このようなニュースを聞いて、「そんな、バカな…?」と、ボクは思った。
信州に暮らしていると、房総半島まではなかなか出かけられないし、遠い世界のように思っていたからだ。
しかし、このニュースは気になった。
日本の自然をテーマにしている以上は、やはり、いつかはこの動物のこともやらなければならない、と思ったからだ。
そこで、とりあえず、予備調査だけでもしてみようと、昨年の12月下旬に現地へでかけてみた。
そして驚いたのは、房総半島の山中でキョンらしき糞をいたるところで発見したことだった。
その糞は、小豆から大豆くらいの大きさで、真っ黒だった。
明らかに、シカ特有の糞で、キョンにまちがいないものと思った。
2cmくらいの小さな蹄の足跡も、あった。
足しげく通っているらしい細い「けもの道」も、随所にみられた。
これは、たいへんな数のキョンが確かに「いる」と感じた。
だが、深い照葉樹林にはばまれてキョンの姿を見ることはできなかった。
照葉樹林の中で『ヴァーン』という、初耳の声を聞いた。
キョンはホエジカの仲間だというから、これがキョンの声だとすぐにわかった。
台湾の深い照葉樹林の中ではお互いに視認してコミュニケーションをはかることができないから、ボーカルコミュニケーションでホエジカ属は進化してきたにちがいない。
その「声」を聞いたことは、すごい数が定着していることを直感できた。
ならば、ここは自動撮影に限る、と思った。
現地調査のあと、3台のデジタルカメラを携えて再び房総半島を訪れたのは1ヶ月後の1月下旬だった。
日頃の経験と勘を利して、キョンがもっとも出現しそうな場所に自動撮影カメラを設置したのである。
そして、翌日にはもう、キョンの姿を捉えることができた。
確かに、キョンが写っていたのだから、あとはカメラにまかせよう。
そう思ってボクは、この間に房総半島一円を調査してしまえとばかりに、1週間ばかり周辺の山中を歩きまわった。
こうしている間にも、ロボットカメラはすざまじい数のキョンを記録しつづけ、ボク自身は自分の目で房総半島でのキョンの分布と今後の動向を確かな視線で捉えることができたのだった。
そこで、1週間でカメラを引き上げるのはもったいないと判断し、そのまま現地に2ヶ月間放置してきたのである。

その結果であるが、もはや恐怖と言わざるをえないほどにキョンの猛群を感じた。
ものすごい数が生息しているといっていい、からだ。
もはや、この外来動物を駆除することは不可能であろう。
房総半島の深い照葉樹林の深部にまで潜り込んでいるので、全頭捕獲は絶対に無理と判断できる。
加えて、地球温暖化とともにますます照葉樹林は勢力をつけてくるので、その勢いに乗って、キョンもさらに重厚な増加を続けるであろう。
房総半島にキョンが帰化してしまったのは、「行川アイランド」という観光施設で飼育していたキョンが逃げ出したものだ。
外来動物を扱うという意識が欠如していたから、初動ミスを侵してしまい、このような結果を招いてしまったといっても過言ではない。
もはや「手遅れ」であり、こうなる前にどうして手が打てなかったのかと、千葉県の行政にも責任はあろう。
いや、千葉県ばかりか、静岡県の南アルプス南部にもキョンがすでに野生化しているという。
南アルプスという大きな山脈を考えてしまうと、これもすでに手遅れの感がある。
南アルプスのキョンも、ボクは、大至急調査をしなければならないと思っている。

写真上:キョンの雄には独特の形をした角が生えている。
写真中:1週間でこれほどのキョンが写った。
写真下:同じ場所に出現したキョンとタヌキ。その身体の大きさを比べてもらえば、いかにキョンが小さなシカであるかがわかる。

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キョンが攻めてくる… への9件のコメント

  1. おいかわ飯店 より:

    小泉今日子がキョンキョンと言ってましたが確かこの動物が語源ではなかったのかと思います。それはさておき、パプアでは、野豚は外来種ですが、現地人の間では重要な蛋白源となっています。人間が上位捕食者として君臨しているので良い関係が築けているのだと思います。日本の場合だとそうは行かないのでしょう。あと飼育個体がどれくらいエスケープしたのかわかりませんが、遺伝的に近親交雑の弊害と言うのは出ないものなのでしょうか?それともそうとうな数が逃げ出したのでしょうか?

  2. まみごん より:

    以前、TVで『キョン』の事は報道されていましたが、「写真中」で実際の姿を見ると、かなりの数生息しているのですね。彼らには罪はないのだけれど、生態系・農業を脅かす存在になってしまうのでしょう、ね。ヌートリアも然り、静かに、しかし確実に影が忍び寄ってきている感を覚えます。

  3. より:

    子供のころ、とあるギャグ漫画に「八丈島のキョン!」というギャグがありました(どこがギャグなんだかわからないけど)。
    ところでgakuさん、「キョンが攻めてくる・・・」、怖いです、群れが夢にでてきそうです。

  4. より:

    南アルプスにキョンとは、恐れ入りましたね
    ただキョンは足が短いので、雪には弱そうなので、これだけが救いかな
    千葉であれば、利根川があるので防波堤になってくれると思うのですが、こちらでは防波堤がないので、心配になりますね

  5. 小坊主 より:

    雪が深いと、ニホンジカでも、餓死や事故死が多いと聞きますので、風さんのおっしゃるように、キョンには、有効な抑止力になる可能性がありますね。
    そう、祈ります。

  6. gaku より:

    雪との関係は、今後の観察にゆだねられると思います。
    野生化しはじめた彼らだから、私たちが想像するほどカンタンな問題じゃあないのかもしれません。
    雪のない時期に移動してしまって、その場で雪を耐える…、ってことだって視野にいれて見ていきたいものです。

  7. 小坊主 より:

    おっしゃる通りですね。
    うっかりしていました。

  8. 2月うさぎ より:

    はじめまして。
    エコロジカルな立場の人達からどう判断されるか不安ではありますが
    ドイツで鹿肉を食べて以来、鹿害ことを聞くたびに、食用にならないものか、と考えてしまいます。
    カラスも食用にならないんでしょうか(どこかでチャレンジしたが、まずかった、という噂は聞いたことがあります・・・本当なのか)。
    日本は食糧自給率も低いですし
    そもそも家畜飼料の穀物類も殆ど輸入ですから
    せっかく増えてくれた動物性蛋白質は
    ありがたく食糧としていただきたい、とおもってしまいます。
    といっても、野良猫が増えても食べようと思わないのですが。

  9. gaku より:

    2月うさぎさん、はじめまして。
    鹿肉は、ボクも好きでよく食べます。
    キョンも、たぶん美味しいと思いますのでぜひ食べたいです。
    セーム皮は一級品でもありますし、増えすぎた野生動物の蛋白源利用はボクも大賛成です。