密かなるハクビシンの動き


3日目は、静岡県境の「ヒョー越し峠」をめざした。
途中の小さな集落の道路際に、ツバキの木があった。
真紅の花をいくつもつけ、道路にも花びらが多数散乱していた。
こんなツバキを見ると、ボクはすぐに「ハクビシン」を思い出す。この時期のツバキの木には、ハクビシンが絶対に毎晩やってきていることを確信しているからだ。
だから、人家付近であろうと、無人集落であろうと、ツバキがあるとハクビシンの行動が目にみえてしまうのである。

ツバキの幹の直径は30cm余もあった。
成長の遅いツバキだから、ひょっとすれば100年くらいかかっているのかもしれない。
幹の樹肌を丁寧に観察すれば、案の定ハクビシンの爪痕が随所に見つかった。
やっぱり、毎夜この木にやってきて、ハクビシンはツバキの花の花粉を嘗めていたのだ。
花が、1000個あれば、その1000個に鼻面をタッチしていくからである。
それも、一晩に2回、3回という周遊コースでタッチしていくから、2000回、3000回もの受粉がハクビシンの鼻で繰り返されることになるのだ。

ハクビシンのこうした行動を目撃すると、彼らはいったい何を栄養源にして生きているのかと思ってしまう。
ツバキの黄色いあのオシベだけを鼻面でタッチして、嘗めている。
それが、はたして栄養になっているのだろうか、と思ってしまう。
まあ、飯田市に合併となった「旧南信濃村」の過疎集落には歴史を物語る大きなツバキの木があることは確かだ。
そのツバキが、人知れず外来動物のハクビシンの生活を支えていると思うと、これもなんだか歴史の因果を感じた。
ハクビシンはそんなことは微塵も思っていないだろうが、かってに生えているツバキだから美味しければそれでいい、のである。

このようなハクビシンの行動を、この村の人たちは誰一人として知らないだろう。
それが野生というものであるが、峠に向かう道路を走っていてもボクはそれを見逃さなかった。
自然界には、どんな状況にあっても、確実になんらかのかたちでサインを送ってきているからである。そのサインを見逃さないようにするのが、エコロジーセンスであろう。
そのツバキの木の近くで、ハクビシンの交通事故死体を発見した。
過疎地でのんびりしている集落でも、近年の車社会をこのハクビシンは計算できていなかった、ようだ。
写真上から、
「道路で血だらけになって死んでいたハクビシン」
「道路際にあったツバキ」
「道路にまで、花びらが散乱」
「幹には、しっかりとハクビシンの爪痕」
(リコー GX100) 

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密かなるハクビシンの動き への4件のコメント

  1. うさうさ より:

    以前2月うさぎの名前でコメントした者です。
    椿の花は、首がぼとりと落ちるので、病人のお見舞いには良くないと聞いたことがあります。
    これは、実体としてのハクビシンの全く与り知らぬ私の妄想ですが
    大量に散り落ちる椿の紅の色と、ハクビシンの血の色が妙にシンクロして
    死んでしまったハクビシンが、どこかで赤い椿に憑いて現れるのではないか、思ってしまいました。
    ぐるぐると樹のまわりを巡りつつ、一心不乱に椿の花をなめていたハクビシンの、おそらくは生への欲求の狂おしいような発露と死の対比が
    私の頭の中で幻想的な怪談に仕上がっていきそうな(でも実際にはなかなかできない)気分すらします。

  2. gaku より:

    うさうささん、
    すごい幻想的な怪談に仕上げていただきましたが、そういわれてみれば、たしかに血の色と椿の花がシンクロしていますね。
    仕事場の庭には、毎晩3匹のハクビシンが出てきていますが、その動作はやはり異様な動きをして怪談的です。
    この動物の動きは、いつ見ても、あまりキモチのいいものではありません。

  3. うさうさ より:

    夜をメインに動く動物には、全体に不気味さがつきまとうのは
    単に周囲が闇だから、というわけではないような気がします。
    生活のサイクルが違う、生活環境が違う生き物の動きというのは
    やはり異質なものにならざるを得ないのではないでしょうか。
    以前、横浜のズーラシアで白いふくろうを見たのですが
    後ろを向いていたのが、くるり、と首だけ180°くらいまわして、いきなりこちらを見たのには
    ふくろうが好きなはずの私もギョッとしました。
    動物園で、その正体がわかっているからいいものの
    夜の森の中、何の知識もなく出会っていたら
    間違いなく魔物の一種だと思うことでしょう。

  4. 小坊主 より:

    ハクビシンの栄養源ですが、藪椿の花の奥には、かなりの量の、蜜があるそうです。(自分で確認したことは、ありません。)
    花粉は、結果として付いてしまったもので、目的は蜜だろうと思います。