今年の信州伊那谷は、ほんとうに雪の少ない穏やかな天候が続いている。
こんな年は珍しいのではないかと思うが、うららかな天候の日には、ボクは犬の散歩によく出かける。
そこで、愛犬を連れて、寒中の天竜川へ出かけたら、ザザムシ捕りをしている老人に出会った。
老人は、まだまだ水の冷たい天竜川の瀬で、ひとり黙々と小石をひっくり返していた。
ザザムシとは、水中の石の下にいるカワゲラやトビケラなど水生昆虫の幼虫たちのことである。
これらの虫を佃煮にして食べるのだが、ある地域の人には、それはそれは美味しい「珍味」、なのである。
昆虫を好むのは、長野県でも上伊那地方のごく一部地域のことだが、それもきわめて限定された土地柄に多い。
そのくらい、昔人は、海から遠く離れた伊那谷で動物蛋白源を求めるためには、地域の細かい自然と対峙して、食べられるものを確保してきた歴史があるからだ。こうして、イナゴやカミキリムシの幼虫、蜂の子、カイコの蛹、川虫、セミ…、にいたるまで、とにかく美味しく「食べられる」ものを探し出して「食文化」を築いてきたからである。
ボクは老人と話しがしたくなり川の中に入っていった。
gaku 『おじさんこんにちは。楽しそうなことやっていますねぇー』
老人 『なあーーに、することがねぇので、天気がいいとここに遊びにくるのさぁー
たくさんは捕れねぇーけど、ちょっとだけ捕って、晩酌をするんさぁー
マゴタロウ(ヘビトンボの幼虫)と川虫(チャバネカワトビケラ)しか捕れねぇーがなぁ
このマゴタロウが、オレは好きでなぁー
ちょっと皮がごそつくけれど、やっぱりいい味しているでなぁー
このあいだ下伊那に捕りにいったけれど、あそこにはマゴタロウがほとんどいなくてよぅ、川虫ばっかりじゃったぁー 』
gaku 『マゴタロウは、汚れに強い虫だから、きっとその川がきれいだったからなんですね』
老人 『ほほぅー そういうもんかい? そういえば、ここの川のほうが汚れておるなぁー
昔は、もっともっといろんな種類の虫たちが捕れたものだが、最近はマゴタロウと川虫ばっかりじゃぁー』
gaku 『そうなんですよ、ザザムシといってもザザと流れるような場所にいる虫だからザザムシなんですよね
だから、ザザムシという名前の虫はいなくて、川の石底についているすべての虫を総称していたんですよ
昔は、10数種類もの虫たちがいて、それを「ザザムシ」と呼んでいましたからねぇー』
老人 『あんた、虫のことにえらい詳しい、なぁー
オラ80歳になるけれど、マゴタロウがどんな親になるかも知らねえぞ…
そして、汚れた水を好むなんてことも、知らなかったなぁー
だっけど、マゴタロウはなぁ シブ味エグ味がなんともいえず美味くて、オラはこのほうが好きだなぁー』
gaku 『オジサン、ボクは上伊那郡の出身だけど、ザザムシなんて食わなかった、に
カイコの蛹ばっかりを食っていた、なぁー』
老人 『そうよ、なぁー オレたちはザザムシ食ってたけれど、カイコの蛹なんて、食わなかったぞぅ…
あんな気持ちの悪いもん、よう食うもんだ、と言っていたなぁー 』
gaku 『そうねぇー ボクたちも、川虫を食っている人たちがいるんだねぇーー って、言ってましたよ。
あんな、気持ちの悪いもん、よく食うねぇーって、みんなで笑ってました、がぁー』
いやー、楽しかった。
たかが犬の散歩でも、ボクにとっては地域でこういった会話ができることがいちばんうれしいこと、である。
それは、地域の自然を見直すきっかけにもなる、からだ。
写真上:ザザムシ捕りのオジサンと柴犬。
写真下:左がチャバネカワトビケラの幼虫、右がヘビトンボの幼虫。どちらも佃煮にすると珍味。
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上伊那でも地域によって川虫と蛹に分かれるんですね~。
私はおじいさんの食趣に近いです、昔はリヤカーなどで行商に廻って来たのをバケツで買った記憶があります、見るのも食べるのも抵抗が無かったです。
蛹とゴトウムシは抵抗がありますね。
いつか、昆虫が蛋白源になって肉を食べられない時代が来たら、伊那谷人の食文化が世界文化になったりするかも・・・・。ないかぁ・・。
ザザムシ採集は今頃なんですね。こちら四国の方では、これをゴウムシ、と言って、釣りの餌にはしますが、食べることはしません。釣り餌で人間が食べるのは、ヤナギムシ、蜂の子くらいです。
南佐久郡に住んでおります。
ここらは蜂の子を食べますが、ざざむしは食べません。うちの村の川も、昔はいろんな虫がいて、あがったり下がったりする虫(?)とか、蛍のクリスマスツリーが見られた、と聞きました。今は高原野菜の畑が切り開かれて泥が流れ込んできたためと、農薬が原因で、ほとんど虫はいません。そういえば、タイではでっかいタガメみたいなのを市場で売っていましたし、白い芋虫を揚げたお菓子もあります。かなり食虫文化です。
私がたまに行く飲み屋さんには
メニューに「ザザ虫」があります。
好きなんだなー。
●カミキリムシの幼虫(ゴトウムシ)は、焼いて食べるとチーズの味がします。
●アブラゼミは、から揚げにしますが、エビ煎の味がして脇の下は鶏のササミ味です。
●カイコの蛹はそのまんま釣り餌の臭いと味ですが、蛹から蛾になったのはバケツで鱗粉をとってから炒り煮込みにすると最高なごきげん味。
●イナゴはもちろんのこと、ツユムシ系も柔らかくて美味。
昆虫食は、ほんとうに奥が深い、です。
>皮がごそつく
丈夫ですからね、あいつ。
頭なんか、さぞや、硬いことと思います。
食いつかれそうで、釣り餌に使ったこともありません。