写真は時代の表現者である


3日間におよぶ「ニコンフォトコンテスト インターナショナル2008-2009」の本審査がようやく終わった。
世界131ヶ国から約47000点の作品が集まり、海外から3人の審査員が加わって合計10名で激烈な審査が続いた。
そして、グランプリと入選作品が決定したのである
今回のテーマは、自由部門に加えて「My planet」。
いわゆる地球環境から身近な風景、愛する人やモノまで、私たちの心の内にあるplanetをテーマにした作品だ。
時代が「環境」問題になってきているので、世界中からそれなりのテーマで撮影された作品が多数寄せられてきた。
人々の意識と時代が確実に動いていることを、作品群の中から再認識させられた審査会でもあった。
今回の最終審査のなかには、カワセミが嘴にカワエビをくわえて水中から浮上してきている写真があった。
この写真を審査員の何人かが高く評価したが、結果的に選外となった。
理由は、30年も前にプロ写真家がすでにやった仕事の亜流だからである。いわゆる、「既視感」にあふれているというやつだ。
たしかにカワセミがよく撮れてはいるけれど、嘴にくわえている獲物がブラックバスやテラピアなら、ボクは強く推した、だろう。
現在の日本社会では、外来魚が水辺環境をかなり悪化させていることは社会問題にもなっている。
その水辺環境を生活の場とするカワセミは、すでにプラックバスなど外来魚の稚魚を餌にもしている。
だから、そのような作品を狙ってきてくれれば今日の「時代性」を強く感じることができるから、ボクは大抜擢をするにちがいない。
これとは対照的に、予選段階からボクが支持して入選になった作品がある。
それは、中国からの応募であったが、アメリカのロッキー山脈を縫う冬のハイウェイにビックホーンという野生の羊が数頭やってきて道路上を舐めているという作品だった。
ハイウェイ上には凍結防止用に「塩化カルシュウム」が散布されていたのである。それを、野生動物がミネラル分補給のために舐めにきていたのだった。
これこそまさに、車社会となって現在置かれている人間と自然界の立場をビックホーンが雄弁に物語っていた。
だからボクは強力にプッシュし続けたので、47000点の中から入選まで漕ぎつけたのである。
写真は、視覚言語の世界である。
そのことに気づいて、作者が一枚の写真にどれだけのメッセージを込められるかがキーポイントとなる。
そのうえで何が写り込んでいるのかを読ませるメッセージとすればいいのであって、そこには写真という記録性からいってもその時代を映す「時代性」というものが求められてくるからだ。
このことは、写真家としてのボクの基本的姿勢でもある。
こうした観点で今回のコンテストを見渡してみると、日本人の作品作画レベルが非常に低いところにあったことは否めない。
作品をつくる前に頭の中で考えるということが、日本人全体の中に欠けているように思えてならなかった。
それには、現在の時代を読む精神性の高さというようなものが求められてくるのだろう。
日本のカメラは世界一の技術でも、それを使いこなす側の「技術」が追いついていないのは残念だった。
この問題をどうすればいいのか、審査会を終えて信州へ帰っても、ボク自身の自問自答がつづいている。
写真:外来動物のヌートリアが夕暮れのため池を悠然と泳ぐ。

カテゴリー: 哺乳類・野生動物   パーマリンク

写真は時代の表現者である への12件のコメント

  1. 寒立馬 より:

    絵コンテをしっかりということですね。
    それに加えて時代を読み取る叡智、未来や今を生きる同胞に伝えるメッセージを1枚の写真に、ということですね。
    私にとって耳の痛いお言葉です。久しぶりに心臓にぐさりときました。

  2. わさびぃ より:

    日本人は同質性肯定、異質性虐待文明の擁護者。発想が新しいとか、他人と違うなんて、人として存在そのものまで否定されかねない。そのくせ、いざ仲良し同士で問題解決できないと、はみ出し者に押し付けて、できてもできなくても問題にならないようにする。束になってかかって来ると強いけど、一人だと何一つできない。発想なんてありゃしない。真似や盗作は世界一うまい。人としてのプライドってものが無いから。あ、評論もうまい。やるのは、自分じゃないから。

  3. 久万@仙人 より:

    よいところをついていますね。GAKUさんの言われるとおりだと思います。
    しかし、こんな場面があったらいいな、と思う理想像、GAKUさんのように、執念をもやしてつくってみたいですね。

  4. どぶろく より:

    コンビニなどでの夜間電力を減らしてもCo2削減にならないよーつって通じる人がどれだけいるか。

  5. 僕は、日本の写真というのは、写真道(華道とか茶道)みたいな概念がある様な気がします。これは、作法に則り、その写真を撮る過程をも重視されます。海外の人たちと交流していると、彼らは、どんな事をしてもよい作品になれば良いという考えのような気がします。レタッチや合成みな同じ舞台で扱われている所もありますしその手段は問いません。今は、デジタルという黒船が来て混乱しており、混沌とした時期なのかもしれません。
    ただ僕は、このような写真道もよいところがあると思うし上手く融合させ新たな芸風が確立できればよいこともあるのではないでしょうか。

  6. ブリスパ より:

    gakuさん、審査お疲れ様です。
    最終選考に残った、ほぼ30枚ぐらいの「絵」に対峙している審査員の方々の表情をルポルタージュしてみたいものです。
    落とされた「カワセミ」の写真、是非見てみたいものです。
    水中から獲物を咥えて飛び出してくる写真なんて、昔じゃそうある例ではないはずですから…
    恐らく、デジタル高速連射によるものだと思いますが…
    で、私は鳥が獲物を咥えている場合、その獲物の表情に全てを合わせる場合が多いのですが、エントリーされていたそのカワセミが咥えていた魚の表情はどうでしょうか?
    外来種ではなかったようですが、そこまで審査は厳しかったようですね。

  7. どぶろく より:

    有名なSさんはその昔すでにそのレベルの写真をモノにされていたテクニシャンですよ。

  8. gaku より:

    Sさんは、親友ですが。
    Sさんの写真をそっくりなぞって、「どうだ!」といって審査員に突きつけてくるけれど、
    そういう人には気の毒なくらい貧困なる精神を感じてしまいます。
    作品は、技術も含めて「発想力」がモノをいいますし、それをボクはいちばん重視しているからです。
    真似では、ダメなんですよ。
    プロにも、そういう人が結構いますが、最終的には生き残ってませんね。
    オリジナルな発想力、これがいちばん大切です。

  9. ド凡 より:

    コンテストの結果が発表されましたね。
    「ビックホーン」の写真は、
    >入選になった
    とのことですが、全54受賞作品が見られるというニコンのサイトにはないようです。
    <http://www.nikon-image.com/jpn/activity/npci/npci2008-2009/award.htm&gt;
    入選と、受賞は違うのでしょうか?
    ともかく、ニコンのサイトの審査員コメントで言及されているのも合わせ拝読して、とっても見たくなりました。
     何か別の媒体で、別の機会に公開されるのでしたら、ぜひ告知しいただきたいと思います。お願いします。

  10. gaku より:

    ■ド凡 さん
    >入選と、受賞は違うのでしょうか?
    違います。
    入選では「いやだ」といって、辞退する人もいます。
    なので、審査員は、辞退者も見越して「補欠」も選ぶようにしています。
    このコンテストの展示は、確か「ニコンサロン」で行われるハズですよ。
    審査員は、審査だけを依頼されていますので、その後のことは主催者に問い合わせていただけるとありがたいです。

  11. gaku より:

    9月9日(水)~9月22日(火)まで、
    銀座ニコンサロンで入選全作品展があります。

  12. ド凡 より:

    gaku様、すいません ド凡です。
     改めて読み返してみたら「もしご存知でしたら」が抜けて乱暴な物言いになっていました。
     失礼しました。
     にもかかわらず、お尋ねしたこと以上にお答えをいただいて、大変ありがたく存じます。
     
     「補欠」 とのこと、これで謎が解けました。
     この先、主催者に問い合わせるにしても、話がより円滑に通じそうです。
     ほんとうにありがとうございました。
     また、前回は受賞作品集が配布されたそうですので、もし今回もそうなら、それにも「補欠」が載るかもと思いました。
     今は作者が公開を辞退(or拒否?)されないことを、願っております。