獣害を考える 4 進化するイノシシ


長野県南部にも、イノシシは昔から生息していた。
しかし、数は非常に少なかった。
少なくも、50年前にはイノシシによる農作物被害はまったくなかった。
1978年に、ボクは「けもの道」を発表した。
そのころにもイノシシは少しずつ増加傾向にあったが、被害に苦しむようなことはなかった。
もちろん、当時の無人撮影カメラには、イノシシの姿はなかった。
そして、当時のイノシシは非常に警戒心が強くて、カメラの前にもなかなか来てくれなかったものである。

1984年に、「けもの道の四季」を発表したときも、まだイノシシの撮影はできなかった。
増加傾向にあるといっても、絶対的に数も少なかったし、警戒心も強かったからだ。
そして、やっと撮影できるようになったのが、1990年代に入ってからである。
それでも、一回シャッターを切れば、イノシシはすぐにカメラを警戒学習してしまって、二度と近づくことはなかった。
こうした性質を持っていたので、捕獲檻に入るようなイノシシは皆無だった。
なので、イノシシの捕獲は犬を使って追い出し、撃ち取るというグループ猟か「くくり罠」が主流だったのである。

それが、1990年代中ごろあたりから、イノシシが捕獲檻にぼつぼつ入るようになった。
そして、現在では、捕獲檻でのイノシシ捕獲がもっとも効率的に行われるようになっている。
それと比例するように、ボクの無人撮影カメラにもイノシシがどんどん撮影されるようになってきた。
それでも、2000年当初のイノシシは、だいぶカメラを警戒していた。
今日でもある程度の警戒はあるが、ここ数年の大胆さは目を見張るほどだ。
このくらい、とにかくイノシシは大胆に性質も変化してきている。
音にも、臭いにも、かなりフレキシブルに対応するようになったからだ。
50年間を振り返ってみても、確実にイノシシの習性が変化していることを実感できる。

こうした変化をうけて、今日では農作物などへの食害もきわめて大胆になり、被害も甚大となっている。
このため、捕獲檻も数多く仕掛けられるようになり、結果は捕獲率もあがっているのかイノシシ肉の相伴にもあずかる機会が多くなった。

と同時に、イノシシにも「疥癬症」が急速に流行しはじめていることも、時代の変化である。
疥癬症は、ここ3年ほどといえばいいだろうか。
とにかく、「捕獲しても毛が抜けていて皮膚もブヨブヨなので、売り物にならないから山に捨ててきた」という猟師の声が聞こえるようになった。
このためだろうか、ここ3年ほどのイノシシの動きをみると、傍若無人ぶりが若干弱まってきているような気がしてならない。
こうした変化は、まだしばらく見届けていかないと答えは出ないが、捕獲率があがったことと、疥癬症での自然死亡も加わって、生息数が若干安定してきてイノシシもおとなしくなってきているのではないかと思われる。

まあ、何はともあれ、イノシシの半世紀の動きをみれば確実に数が増えてきているので、山菜と同じような定義でイノシシ肉をもっと消費したほうがいいだろう。
そのための模索もはじまっているのだから、こうした盛衰も10年単位で見届けながら臨機応変に対応していくことが、野生動物の保護管理ではないかと思う。
写真上から:
1)疥癬症にかかったイノシシの若い個体。
2)中央アルプスの標高1800m付近にまで分布するイノシシ。
3)イノシシ捕獲檻。
4)岐阜県のミカン畑にイノシシ避けのフェンスが張られていた。
5)捕獲された若いイノシシ。
6)缶詰や燻製にされて販路拡大中のイノシシ肉。

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獣害を考える 4 進化するイノシシ への4件のコメント

  1. どぶろく より:

    うーん、たった50年でかくも、習性が変化していますか。gakuさんならではの説得力あるレポートだなあ。偉い学者先生なら信じないかも。
    ところで、家で飼ってるネコが疥癬を拾ってきました。注射で治りましたが、気になりノラをよーく観察しました。ガン?のネコはいたものの、あとはみんな毛並みがきれい。
    思い浮かんだのはアニマル黙示録の疥癬タヌキ。あんなのが夜中にバラまいているんでしょうか。

  2. gaku より:

    近所の畑に毎晩やってくるタヌキも、尻から尻尾、大腿と疥癬になって毛が抜けています。
    こういうのが、飼い犬などにうつしていくのでしょうね。
    そして、タヌキは痒みに苦しみながら死んでいく。

  3. 北の狩人 より:

    ヒグマも進化しているのかも知れません。
    以前は箱ワナを掛けても掛からなかったデカイやつが、この頃は掛かる様になってきたのです。
    用心深さが薄れて来たのか、人間社会に慣れて来たのか、それが進化と言うならヒグマも同様ですね。

  4. gaku より:

    ヒグマも、確実に変化してきているハズです。
    羅臼で見たダブルの捕獲檻は、なまし番線一重でつないでありましたが、あれにデカイ熊が入ったら危険だと思いました。
    野生動物の変化に、人間も変化していかなければならないと思います。