ツキノワグマは確実に増えている


今日の新聞には、長野県と岐阜県にまたがる乗鞍岳で、ツキノワグマが大暴れして9人に重軽傷を負わせた事故が一面に載っている。
朝日新聞は、一面どまんなか。
読売新聞は、一面の左隅。
信濃毎日新聞は、一面の3/4を割いて、34、35面でも大々的に報道。
これらの記事を読んで、ボクは、かなり突っ込んでしまった。
■「なぜこんな高所に…」
  餌となるドングリはないし、堅果類はないのにどうして…?
■「中標高地でドングリを食べているはずなのに…」
  ドングリがあるのは、標高1000~1500メートルだから、2700メートルの高標高地には餌がないハズ…
■「熊がドライブインの残飯を狙ってきた可能性がある…」
■「もう二度とここには来たくない…」
  大阪から来た26歳の看護師のコメント…
■「オス熊が9人を襲うという事例は聞いたことがない…」
  よっぽどパニック状態だったのだろう…
まあ、いろいろなコメントが出されているが、相変わらず人間の勝手な都合だけで記事にしていた。
ドングリや残飯などといった、これまでずっと使い古された言葉だけを使っていて、もっと、根本的な理由付けはできないものなのだろうか?
ツキノワグマは、平地から高山帯まで広く生息エリアにしているし、この時期には高山植物が大量に実をつけていることくらいわかりそうなものだ。
ボクは、ツキノワグマは確実に増えていると、これまで一貫して言い続けている。
もう、4年もいろんな山地に高性能無人撮影ロボットカメラを設置して、ずっとツキノワグマの動きを追っているが、毎年次々と子供を連れたメス熊が何組も記録され続けているし、捕殺されても次々に別個体が同じような数で補充もされてきている事実を知っているからだ。
こうした事実を、静かにそして確かな手応えとして見てきているからである。
しかも、「クマクール=熊来ーる」といって、
ある樹皮を芋焼酎で煮たあと乾燥させたり、その煮汁をつかったり、
ある植物を乾燥させておいて、現場で水で溶くと、独特な熊のよろこぶ匂いがでたり、
南アルプスにシカやサルやイノシシがよろこぶ泥土が流れてくる川があり、その泥土を中央アルプスの熊の通り道に設置してみると熊がどのような態度になるのか、
とにかく、熊が関心を示す数々の「媚薬」を使って、ツキノワグマの実際の頭数を調べているからである。
 
さらには、「マタミール=股見ーる」といって、
ツキノワグマの股間を自動撮影して個体識別もしている。
熊の股間は、熊の顔よりも個性的で、股間だけで見事に識別できることがわかっている。
また、ヘアートラップも随所に設置して、熊の体毛を集め、その動きもしっかり把握しながら行動の先読みをして無人ロボットカメラの効率性も図っているのである。
このように、独自なアイデアと技術を駆使して調査考察を続けていると、ツキノワグマはほんとうにたくさんいるし、きわめて身近なところに平気で行動していることがよくわかる。
それなのに、地域の人たちはまったくその事実に気づいていないというのが、現実なのである。
だから、今年(2009年)も、5月から今日まで、人家付近の平年と同じ林に、まったくの変化なく毎晩ひっそりと何頭ものツキノワグマが行動していることも、ボクは知っている。
その熊たちが、どこをどう歩いて、第2、第3のカメラにも移動していき記録されていくかまで、面白いほどにわかっているのである。
こうした動きは、目立つ年とそうでない年があるようだが、カメラで追跡するツキノワグマの動きにはどんな年でも同じなのが事実である。
このことは、裏を返せばふだんふつうにご近所をツキノワグマがひっそりと行動しているということになるのである。
なので、そろそろ3冊目のツキノワグマの本をまとめるつもりでいるが、ドングリの稔り具合がどうのとか、残飯がどうのとか。
ツキノワグマは数が少ない動物だから厳重に保護しなくてはいけない、などと。
とにかく斬新なアイデアを使って、実際のツキノワグマがどのくらい生息しているのかを調べる技術もない人たちが、専門家だとか研究者といって、マスコミにあやふやな情報を流すものだから、相も変わらずまったく進歩もない報道がメディアに載ってしまうのだ。
それが、そのまんま、10年も20年も変化していかないのがボクにとっては不思議だし、熊はどんどん進化しているのに、こうした脳止感覚の人間のほうが「事件」だと思うからである。
ボクが、研究者なら、残飯にツキノワグマがやってくるのなら標高3000メートルから500メートル刻みに平地まで、「残飯」を設置してそこにあつまってくる熊を調査するであろう。
そして、残飯の味をしめた熊がいけないのなら、どんどん射殺もしていく。
こうして、やってくる熊を順次潰していきながら、翌年の補充状態を調べていくであろう。
(少なくとも長野県の熊事情を見れば、年間相当数の捕殺が行われても数は減っていないから、このくらいの大胆な研究を今ならしてもいいと思うからだ)
また、ドングリに熊がやってくるのなら、ドングリをどっさり撒いて、そこにやってくる熊を次々に撮影して個体識別しながら潰していき、次の年の変化を見たい。
(もっとも、こうしたドングリにやってくるという態度に出る熊とはまったく別の嗜好の熊のいることにも気づかないようでは専門家とはいえないが、ドングリにはまったく来ない熊もいるということである。)
ハチミツが、ツキノワグマは大好きだというけれど、ハチミツに狂うツキノワグマは全体の1割しかいないことをどれだけの研究者が知っているのだろうか。
獣害に電気柵が有効だと言い放って電気柵メーカーと癒着しているツキノワグマ保護NPOがあるけれど、電気柵を屁とも思っていない熊個体もいることを、一般人も知っておいてほしい。
林道工事現場に置いてある発電機を、無人となった夜間にそっとツキノワグマがやってきてひっくり返すのは何故なのだろう…か?
こうした、ちょっとした熊からのサインにどう答えて説明できる人が何人いるだろうか。
そのくらい、ツキノワグマにも十人十色というほどに、個性が分かれていることをどれだけの人が知っていて、次の対処ができるのだろうか?
今回のツキノワグマの事件を得て、相も変わらず本質に迫ることができないニポン人の情けなさをボクは感じた。
もう、とっくにこれまでの考えを一度リセットして、ツキノワグマは「増えている」という発想に切り替えれば、
もっともっと今日ある自然界や人間社会を柔軟に目撃することができるとボクは思っている。
ツキノワグマがほんとうに絶滅するほどに数が減っているのなら、その理由を的確に見せて欲しいし、どこまで減れば絶滅するのか。
どこまで増えれば、余剰部分を間引いてもいいのか。
増えているからといって、どんどん殺戮していいともかぎらない。
そうかといって、絶滅するとうわごとだけならべて、調べるという基本的な技術鍛錬を怠っていても困る。
だから、ツキノワグマを語る研究者や専門家は、的確な視点と技術で今日おかれている日本全体の自然環境を誰にも分かるように説明できなければならないと思う。
それと、高速道路通行代が土日1000円になったからといって、豊かな自然に癒しを求めて都会から旅にでるのはいいが、豊かな自然界にはマムシもスズメバチもツキノワグマも、同時にセットになっていることを忘れてもらっては困る。
緑豊かな観光地のパンフレットには、誘客だけの案内しか載ってないが、そのようなところにも熊をはじめとする野生動物が普通に生息していることを常に念頭に入れておかなければならないからだ。

※ツキノワグマが増えている理由は、もう一つのブログ「ツキノワグマ事件簿」を遡って読んでもらえば詳しく書いてある。
http://tukinowaguma.net/
写真上:親子熊が次々に記録されるのは、それだけ生命の補充ができている証拠。
写真下:里にやってきて2度捕まったことのある熊の耳にはタグが光っているが、それでも懲りずに遊歩道を平気で歩く親子熊。

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ツキノワグマは確実に増えている への5件のコメント

  1. しらとり より:

    初めてコメントします。今回の事件、とても驚きました。話は変わるのですが、ぼくは自営業をしていて、売上が芳しくないので牛乳配達をしております。それで気付いたのですが、ぼくは愛知県の三好・豊田を配達でまわっています。それで初めてこんな住宅地にタヌキ・キツネ・ハクビシン・アライグマを目撃しました。多分、普通に生活している人はこんな事は知らないと思います。ツキノワグマもほんの数年前までは愛知県にはいないことになっていました。30年ぐらい確認されていないといった説明を豊橋動物園で見た覚えがあります。でも、藤岡町(豊田市)からくるお客さんがつい最近でも目撃談があったと言っていました。やはり、ツキノワグマは生息数も生息域も増えているのでしょうか。意外ともうすでにすぐ近くにいるのかもしれませんね。

  2. もっち より:

    >「もう二度とここには来たくない…」
    こういう人は、本当に来なくていいです・・・というか、来てほしくありません。
    現在では、道路が整備されており、簡単にどこへでも老若男女問わず行くことが出来ますが、昔なら麓から自分の脚で山へ登り、体力や精神力のないものは、途中で挫折。いわば、ふるいにかけられ、選ばれた者でなければ山頂に到達することができませんでした(そのおかげで、山での事故も少なかった)。
    先日も、テレビで、このシルバーウィーク中の富士山登頂の賑わい振りを放映しておりましたが、なんだかなぁって感じです。
    こういう状況の中では、「自然に対する畏敬の念」などという気持ちは、だんだんと人の心の中から消滅していってしまいますね・・・。

  3. gaku より:

    ■しらとり さん、はじめまして。
    >でも、藤岡町(豊田市)からくるお客さんがつい最近でも目撃談があったと言っていました。やはり、ツキノワグマは生息数も生息域も増えているのでしょうか。
    藤岡町の奥山といえば、猿投山や段戸山など周辺は、根羽村、浪合村、平谷村などを経て、ボクのいる伊那谷につながっています。
    豊田市あたりのみなさんは、熊が近所に出たといえば、「奥山が餌不足だから、こんなところまできた。可愛そうなクマ」
    ということで、新聞も、専門家のコメントもそれで片付けられてしまいますが。
    こちら、伊那谷でも広くまんべんなく高密度でツキノワグマは人家のすぐ隣にまで日常的に出没しております。なので、決して餌不足でもなく、熊の個体数がそれだけ増えているから身近なところにもたくさんの出没がつづくのです。
    藤岡町から伊那谷までの山並みを見ていただければ、どれほど熊の生息地が広く展開されているのかカンタンに想像がつくと思います(近所には恵那山もありますし)。
    豊田市に熊の目撃がつづくのは、伊那谷からどんどん生息域を広めていると思っていいでしょう。
    愛知県でも、まちがいなくツキノワグマは増えておりますので、安心してください。
    そのうちに、油断している人が事故に遭うと思いますので、行政などはもっと敏感に啓発活動と対処をしなければならない、と思いますよ。
    ■もっち くん
    >「自然に対する畏敬の念」などという気持ちは、だんだんと人の心の中から消滅していってしまいますね・・・。
    そのとおり。
    きれいだ、美しいだのの写真で素人さんを釣ってきた業界、社会の責任も大きいと思いますね。

  4. bluefin より:

    こんにちは。初めまして。
    昔乗鞍の畳平でバイトをしていました。
    そのこともあって、今回の事件には大変驚きました。
    ただ、いつも出てくる○田さんとか、○森協会の方々のコメントを見てあきれてしまいましたね。
    この時期に、高山帯はコケモモ、ガンコウランなどのベリーのたぐいや、ハイマツの実など、クマにとってごちそうばかりなのは、素人の私でも分かること。
    gakuさんのブログを時々拝見させていただいていますが、正しく自然を見ることが出来るよう、これからも心がけたいと思います。

  5. gaku より:

    ■bluefin さん
    はじめまして。
    >この時期に、高山帯はコケモモ、ガンコウランなどのベリーのたぐいや、ハイマツの実など、クマにとってごちそうばかりなのは、素人の私でも分かること。
    まさに、おっしゃるとおりです。
    こちらの高山帯では、毎年9月20日をメドに紅葉がはじまります。
    この時期こそ、ガンコウランなどはまさにヤマブドウと同じような甘酸っぱさになり、クマ、テン、キツネまでもがこぞって食べています。
    自然界は、すべての生物に優しく、豊かであることを知れば、ほんとうに面白く感じるものです。