星になったヨタカが帰ってくる日


雪が降った。
この雪を、待っていた。
大した雪ではないが、こんな淡雪でも景色が一変するからありがたい。
この雪にボクは、撮影現場へと急いだ。
道路際のガードポールには、目印の黒いビニールテープが貼り付けてある。
そこにカメラを置き、ズームレンズを65mmの焦点距離に合わせれば、狙っている画角がファインダーの中に拾える。
これが、いま考えているボクのひとつのテーマなのである。
対岸の山の斜面に、松枯れが数本はじまっているのを見つけたのは2006年の夏だった。
それを見て、松枯れがやがて山全体に広がるであろうと予測した。
ならばこれは、定点撮影しておかなければならないと、写真家としてのボクの血が騒いだ。
マツクイムシの底力を、いわゆる、10数年先まで見越して山の変貌を記録したいからだ。
松枯れは、ほんの少しずつ広がっていくから慌てることはない。
しかし、慌てなくてもいいけれど、ポイントだけは確実に押さえておかなければならない。
なかなか時間がとれなかったりして、やっと撮影できたのが2008年5月のこと。
ポイントとなる写真をたった1枚だけ写しておいたのだが、チャンスは思いがけない方向に展開しはじめた。

2009年の夏に、大伐採がはじまった。
狙っていた松枯れの林そのものが、およそ20haほど、見事に伐採されたのだった。
木材価格が低迷している昨今、これほどの面積を伐採するのも珍しかったが、山林地主も松枯れを予測していたのであろうか。
枯れる前に伐採して少しでも金に換えてしまおう、と考えたにちがいない。
松枯れを追おうとしていたボクは、ここで作戦を変えた。
これだけの面積を伐採されたのだから、これはチャンスと考えその後の山林変化に期待しよう。
いまどき、山林を皆伐するなんてほんとうに珍しいことだから、願ってもない実験場になるではないか。
それは、伐採をしたことでノウサギが復活し、地上に営巣するヨタカが帰ってくるのではないか、ボクはそうシミュレーションした。

とくにヨタカは、ここ10年ほど、減少が著しい野鳥となっている。
ヨタカは乾燥して開けた地上に営巣する関係上、長年伐採されずに樹木の生い茂った山野だらけになると、きわめて棲みにくい環境になってしまう。
このために、ここ10年ばかりボクはヨタカの声をまったく聞けてないからだ。
その原因は、伐採されない山野が多すぎて産卵できる場所がなくなったのと、電気エネルギーを使って夜景をどんどん明るくしてヨタカの餌である大型昆虫類を現代社会が「光害」として殺し続けてしまっているからだ、と睨んでいた。
だから、営巣地がこういう形で出来れば、ボクのシミュレーションを確認できる。
今夏は、だから楽しみなのだ。
この伐採地に夕方から出かけていって、夜行性のヨタカの行動を確認したい。
ついでに、保護色となった2個のタマゴが座るヨタカの巣も見つけたい。
ヨタカの巣なんて、もう40年間も見てきていないから、自分の目で確かめたいのだ。
その巣を見つけることは至難の業だけど、自分の自然を見つめる技術にも挑戦してみたい。
木を切れば大喜びする生物と、切られることにより大きなダメージを受ける生物がいる。
自然界を確かな目で見るにはそのバランスが大切なのだが、そんなちょっとしたことにボクは気づきたいのである。
星になったヨタカをこの地球上に帰したい、からだ。
写真上から:
1)こんな淡雪は一日で溶けてしまうが、伐採地をリアルに見せてくれるわずかなチャンスでもある。そして、この景色を地元の人たちだって目の当たりにしているだろうが、ヨタカやノウサギのことを考えられるヒトは誰一人いないだろう。
2)左は伐採前、右は伐採後。こうして同一場所から定点撮影すると、その変化が一目瞭然。
3)40年前に撮影した古いふるいヨタカの写真だが、自然界の変化をさぐるボクのこだわり実験のためにも、このモデルを新しく撮影しなおしたいと思うことしきりである。

カテゴリー: 風景   パーマリンク

星になったヨタカが帰ってくる日 への8件のコメント

  1. 北割 より:

    突然の大伐採に驚いていたところです
    2006年に兆候があったのですね、サッパリ気付かずに通り過ぎていました。
    ヨタカ・ノウサギなんて全く考えが及んでいません。

  2. あーる より:

    夏の夜にはヨタカの声は当然聞こえるもの、と思っていました。が、改めて思い出してみると、去年の夏、どうだったろう。
    今年の夏は気をつけてしっかり聞きます。
    自然とは漫然とつき合っていてはだめですね。

  3. 自由飲酒党総裁 より:

    信州の状況はわかりませんが、九州では皆伐が相次いでいます。伐採した木を運んで玉伐りする手段が、架線から重機に変わってしまったためです。架線は張る技術もいるし、人出もかかりますが、重機は少人数で済むので、山が傷つけながら、重機の道がどんどん入っています。枝打ちと玉切りを一度にできるプロセッサーは一台2400万円で高性能ですから、導入した伐採業者はどんどん稼働させないと借金を取り返せません。大体5haは皆伐しないと機械の能力が活かせないと聞きました。
    この伐採現場は、山に重機は入っていないようですから、架線集材で出したのですね。でも、材価は安いから、少しでもまとめて伐採した方が搬出費用が安くなることに変わりはありません。
    なお、機械集材で山を傷つけるのも20haの皆伐も合法なので、制度を整えないといかんですね。

  4. gaku より:

    ■北割 さん
    あの伐採地はよく目立ちますから、みなさんいろんな思いで見ていることでしょうね。
    ボクは、ヨタカとノウサギのことがいちばんさきに思い浮かびました。
    今夏が楽しみ、です。
    ■あーる さん
    >自然とは漫然とつき合っていてはだめですね。
    そうなんです、自然はいつも小さなサインを出しています。
    それにボクは目も耳も心も傾けている、だけなんです。
    ■自由飲酒党総裁 さん
    ある意味では、九州の伐採の仕方もいろんな意味で注目してみたいところがあります。
    信州では、これだけの規模の伐採は非常に珍しくなりました。
    もちろん、今回は架線集材でしたが、すでに植林の準備も進められているようです。
    (何を植えるかも、楽しみですが…)
    実験場としては、ほんとうに願ってもない環境に感謝しているところです。
    「ないな」ほんとうに美味しい酒ですね。
    いつも、総裁さんの顔を思い浮かべながらいただいております。
    感謝、感謝…、です。

  5. 小坊主 より:

    現代の雪形ですね。
    何が植えられるのか、動物相は、どのように推移するのか、興味があります。
    釣り場にしている丹沢の山も、収穫期を迎えた部分でしょうか、架線集材による皆伐が行なわれ、伐採地が、山肌にパッチとなって、張り付いております。伐採後の植林は、見る所、やっぱり、ヒノキのようです。

  6. 北の狩人 より:

    なるほど、「目から鱗」で物の見方が変わりますね。
    何か楽しみの幅が広がった気持ちです。

  7. 自由飲酒党総裁 より:

    私の好みの焼酎が気に入っていただき、嬉しいです。獣害対策コンサルタントとして、招聘したいので、その時にまた別のうまい焼酎を献上いたしますね。

  8. gaku より:

    ■小坊主 さん
    何が植えられるか、かなり楽しみです。
    オオタカの餌場にも、なりそう。
    ■北の狩人 さん
    やっぱり自然は動いていますから、わたしたちの自然観を多いに変えて行く必要がありますね。
    ■自由飲酒党総裁 さん
    獣害対策、面白いことをやりましょう。
    楽しく、なりそう、ですね。