雪山での滑落はメメント・モリ


いまから、20年ほど前のことだった。
真冬の中央アルプスの標高1800mの地点で、ボクはクマタカの撮影をしていた。
斜度60度ほどの雪の急斜面を10mほど、降りることになった。
谷底までは優に300mはあった、だろうか。
スコップで足場をつくりながら、5歩ばかり降りたところで、ボクは一瞬のうちに滑ってしまった。
それは、あっというまのことであって、何が原因だったか分からないまま滑り落ちていった。
滑りながら、アンカーをとってあったロープが伸びきって止まることを念じていた。
「ロープよ切れるなよ、止まってくれ~~」
そう思うのが、精一杯だった。
ぐぐーーんと、40mのロープが伸びたところで、ボクは幸運にも止まった。
手放さなかったスコップで、新たに雪の斜面に足場を掘りながら、ボクはロープを使って生還をした。
そして、改めて谷底を見下ろして身震いをした。
これが、もし、アンカーをとってなかったら、間違いなくボクは死んでいたことであろう。
滑る途中で、頭が一瞬のうちに回転しながら下向きになるのが分かったから、そのまま滑落していけば、まず谷底の岩場に頭をぶつけていたにちがいない。
まさに、命拾いをしたのだった。
自然を相手にするには、細心の注意を払わなければならない。
いつもそう思っていたから、このときはアンカーロープをとったまでだ。
だから、これまでいつも大抵は現場で判断をして、最善の確保策だけはやってきて今日に至っている。
自然はそれだけ、油断をしてはならない、からである。
その中央アルプスで、昨日は2人が遭難した。
ザイルのアンカーがとってなかったのか、滑落である。
たぶん、それは一瞬の出来事だったにちがいない。
滑落経験者としては、予期などできないことは分かっているので、事故は一瞬だったのだろう。
遭難者にはお気の毒だが、ご冥福を祈るしかない。
昨日の稜線は強風で、ヘリコプターも近づけなかったらしい。
そして、今朝になってヘリコプターが遭難者を乗せて近所のグラウンドへ下りてきた。
朝になって強風が止んだから、ヘリコも飛べたのだろう。
そのあと、中央アルプスの稜線はどんどん雲が重なり、夕方には視界がきかないほどに天候が崩れた。
当然ヘリコプターも飛べない状況、となった。
山麓には、冷たい雨が降りはじめた。
こうしたニュースを聞くたびに、地元に住んでいる者としては、やはり自然は絶対にナメてはならないところだと自分自身に言い聞かせながら教訓にするしかない。
写真:里にはスイセンが咲き春が訪れているが、アルプスの稜線はまだまだ厳冬期である。こんなにいい天気なのに、ヘリコプターも飛べないのだ。

カテゴリー: 哺乳類・野生動物   パーマリンク

雪山での滑落はメメント・モリ への2件のコメント

  1. 北割 より:

    このようなニュースに接するたびに、気の毒と言う気持ちと同時に自然の中に身を置いていると言う気持ちが薄くなって来ているのでは?と思います。
    ロープウェイ簡単に2900mまで連れて行ってくれる、そこは厳しい自然の中と思わず管理された観光地と勘違いしてしまう方が多い気がします。
    今回、事故にあわれたお二人がそうだとは思いませんが・・・。

  2. gaku より:

    林道での落石も怖い、ですね。
    この時期は、土壌が緩んでいるから、いろんな意味で注意して行動しなければならないと思っています。