塩化カルシウムを撒く「まきえもん」さんの仕事


朝起きると、猛烈な寒さを感じた。
天気はどうだろうと窓をあければ、そこには快晴のキーンとした空があった。
中央アルプスには、昨夜も新雪があったようだ。
わが家の庭にも、びっしりと霜がおりていた。

こんな日は、「まきえもん」がしっかり仕事をしただろうな、と思った。
だから、オイラは「まきえもん」を見にいった。

「まきえもん」とは、自動で凍結防止用の「塩化カルシウム」を撒くロボット。
気温が低くなると、センサー回路がはたらき、塩カルをビュビュビュビューーンと道路に撒き散らすのだ。
この撒き散らされた「塩」が路上で溶けて、路面凍結を防いでくれるといったスグレモノ。
だからドライバーは、安心して冬の道路利用ができるというワケ。
長野県では、交通量の多い高冷地のスリップ危険箇所には、「まきえもん」さんが普通に頑張ってくれている。

やはり「まきえもん」は、昨夜から今朝方にかけて勤勉に仕事に励んだようだ。
勢い余った塩カルが、道路を飛び出して側溝やら法面にまで散らばっていた。
それらの塩カルは、空気にふれて急速に融けはじめていた。

道路に撒かれた大量の塩カルも、晴天なのに雨が降ったように融けて光っていた。
そこを車が通るから、融けて濡れた塩カルをタイヤにつけてローラーしていく。
こうして、何台もの車が塩カルを「まきえもん」以外のところにまで延々と運んでいくのだ。
濡れた路面をたどってみれば、なんと1kmも2kmも舗装道路が黒ずんで続いていた。
なるほど、塩化カルシウムという人工の「塩」である食品添加物がこうして運ばれ、周辺の土壌環境を塩分高濃度化していくのだ、と思った。

道路際の畑や田んぼの土手、林縁には大量のノネズミが潜んでいる。
本来ならば、塩分にとぼしいハズの野生動物にとって塩カルという化学塩は貴重なサプリメントとなろう。
それらを捕食する上位動物も、塩カルを間接的に補給できて、いろんな意味で健康管理されていると思ってもおかしくない。

そして、もっとも大量に塩分を運搬するのは水だ。
雨や雪が塩カルを道路から拾いあつめ側溝をつたい、小河川から天竜川のような大河川へと集まって海まで流れていく。
とうぜん河川の塩分濃度はあがり、信州のような上流河川でも擬似「汽水域」をつくる。
すると、これまで信州には見られなかった「アオサギ」や「カワウ」が海辺から飛来してきて日本アルプスの上空を飛ぶ姿が目撃されるようになった。
かれらは、まさに塩分濃度があがってきた山岳圏である長野県の清流が「汽水」に近づいていることをいちはやく認識したからだ。
アオサギが年を追って増加してきたのは、スパイクタイヤが禁止となった1980年代初頭からである。
そして、スパイクタイヤからスタットレスタイヤに移行するにつれ、塩化カルシュウムの散布量は飛躍的に増えて今日にいたっている。

現在の長野県南部の天竜川では、アオサギが飽和状態になりそこへ2000年以降から「ダイサギ」が加わって数を増やしてきている。
ダイサギはアオサギより汚水環境を好む野鳥だから、何をかいわんやである。
こうした野鳥たちの進出盛衰を今後どのように見届けていくかということも、人間と社会と自然環境を語るみんなのテーマとなろう。

ところで、塩化カルシウムといえば、30年まえオイラは長野県の道路審議委員というものを2期10年間やったことがある。
このときに、塩カルの問題点を審議に出したのだが、当時の座長は信州大学のある教授だった。
「スパイクタイヤが使えなくなって、長野県のような高冷地の道路ではこれから塩カルを大量使用すると思うのですが、道路管理者として環境への影響などを視野にいれているのでしょうか?」
とオイラは言ったのだが、座長はあっけにとられたような顔をしていた。
そして、県の職員が慌てて資料を調べてきて、
「環境には問題がないことになっております」、ということだった。
ちなみに、環境審議会出席での長野県からの日当は、たしか13000円ほどだったと思う。
オイラは長野県の道路事情を知るために、高速道路で県庁まで行ったから往復の高速代が7000円。
ガソリン代が、3500円。
途中でお腹がすいたので、高速SAで食べた「天ぷら蕎麦」が、500円。
差し引き2000円ほどが、オイラの日当だったと記憶している。
行政の審議委員なんて名誉職のようなものなので、建設的な意見は述べる必要がないのだ、とこのとき痛く悟った。
あれから、30年。
まだ、日本国民のほとんどはこの塩カルという人工の「塩」について何も考えてはいないようだが、いろんな意味で問題点は指摘できよう。
全国的にニホンジカの激増に苦慮しているところもあるが、こういうところにヒントがあることも時間軸を追って視野にいれていけばわかること、だからである。

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塩化カルシウムを撒く「まきえもん」さんの仕事 への7件のコメント

  1. そらとびねこ より:

    湖北地方・長浜市内の国道では「まきえもん」も塩カルの袋も目にしたことがなかったです。米原に行く途中の国道365が一部キラキラ光っていたけど塩カルのせいかしら。北陸自動車道では撒いていたかもしれませんね。バイパスや県道、近所の生活道路は融雪装置で夕方から水が出ていましたし、朝早くから夕方まで市の除雪車がフル回転で地域を回っていました。
    個人宅でも簡易融雪装置や除雪機を使っていましたが塩カルを撒いているのは見ませんでしたね。
    シカ、アオサギ、サル、イノシシはずいぶんと出ていましたが塩カルも影響していたのか…
    タイヤで運ばれていたのかもしれませんね。他のいろいろ複合的な環境要因も絡んでいるかもしれませんが。

  2. oikawa より:

    塩害といえば僕の知り合いがこんな事を書いていました。人が撒く程度なのでこれほどひどくなる事は無いと思いますが。
    http://mari92116.exblog.jp/13039981

  3. あーる より:

    「まきえもん」さんは見かけませんが、だれかが代わりに盛大に撒いてくれてます。
    車が傷む。
    汚染とか害とかというのも人間からの視点ですよね。
    スパイクタイヤは、あれはあれで問題になりましたし。
    生き物は環境が変われば、それに合わせて頑張って生きようとするし、及ばなければ死んでしまうだけだなあ。そうやって文句も言わず、したたかに頑張る姿が好きだなあ。

  4. しらとり より:

    「まきえもん」さん
    初めて見ました。その地方でないと知らない事がたくさんあります。それによって確実に起こっている環境の変化も。
    そう言えば 最近は昼の仕事でお店をやっているのですが、これまであまり見たことの無かったトビが良く飛ぶようになっています。あと夜の仕事の牛乳配達で毎年秋口からこの時期までお客様の家の牛乳ボックスに牛乳を入れようとすると よく蜘蛛の巣が顔の辺りに絡み付いて困ったのですが、今年はどの家もほとんど蜘蛛の巣が絡みつくような事はありません。蜘蛛の巣が全く無いわけじゃないのですが、不思議な感じです。これも何か今年の猛暑とか秋の訪れのタイミングのズレなど環境の変化が関係しているのでしょうね。

  5. わさびぃ より:

    あの白い鳥、塩カルが原因で増えたのですかぁ・・・
    知らなかったぁ・・・。
    家の前でも、田んぼの生き物を狙ってる姿を見ますねぇここ数年は多くなってきました。(少なくとも15年前は少なかったのは確かです)

  6. とも! より:

    うちは標高千mの高冷地なので、まきえもんさんではなく、専用車で道路全面に撒いていきます。あんまり大量に使うので、最近は値段の安い塩化ナトリウムに切り替わってきています。どっちがどう影響するんですかねえ

  7. gaku より:

    ■そらとびねこ さん
    湖北にかぎらず、雪の降る地域なら、大なり小なりどこでも塩カルは使っているハズですので、今度から注意して見てみましょう、ね。
    ■oikawa さん
    >人が撒く程度なのでこれほどひどくなる事は無いと思いますが。
    たしかに、凄いことになっていますが、人が撒く程度でも、かなりの環境変化は起きていると思います。
    なにしろ、30年間ですからねぇー。
    ■あーる さん
    動物たちは頑張っているけれどタイヤェーンをみんなが巻けるように頑張ってみるのも、面白いですね。
    これは、人間の試練…、かも?
    ■しらとり さん
    身の回りのいろんなサインを読めるようになると、面白いです。
    そんなサインの積み重ねが、塩カルにたどり着きました。
    ■わさびぃ さん
    いろんな地域での足元から観察していくことがいちばん大切なことかも、と思っています。
    ■とも! さん
    塩カル、塩ナト…
    アンモニアも基本的には使いますので、プラスになる生物には、ほんとうにプラスになるのでしょうね。とりあえず、は。